3月7日 春の家
2006年 03月 07日
(はるのいえ うらからおせば たおれけり)
和田悟朗。
暖かな日射しが開け放った部屋の畳に差し込んでいる。風に木々の花のいい香りがする。庭に面した縁側に座するとかすかに蜂の羽音がする。「春の家」とはそんな感じだろうか。その家が一枚の板に描かれた絵のように、「裏から押せば」倒れてしまう。現実に家の壊れる様子、たとえば新築のために古い家を引き倒しているのかもしれない。しかし句に詠まれたとき、この家の倒れる様は頭の中に何度でも繰り返す景となる。たぶん「押せば」という語が大切なのだろう。
掲出句は句集『山壊史』所収。作者和田悟朗には、句集、俳句評論など俳人としての著書のほか化学者としての著書も多数ある。その二つの世界の住人としての視点で書かれた『俳句と自然』という本には、「私は年来、ますます両者(自然科学と俳句)が同じ自然観の上に立っていると信じるようになった。」ということばがある。この押せば倒れる家も、何かの比喩であると同時に、自然現象の法則であるような感じがする。
作者は大正一二年(1923)神戸市生れ。橋閒石に師事。赤尾兜子主宰「渦」の創刊同人でもある。by癒しの一句。
(はるのいえ あいんしゅたいん したをだし)
山根尽生。
明日3月8日の一句
「神の手で撫でたやうなる朧かな」
松瀬青々。
遠隔治療のお薦め