7月18日 慌て風呂敷
2006年 07月 18日
昔、寺の和尚さんと言うものは、魚や肉を食ベてはいけない、と、言うことになっていました。
寺男の太作(たすけ)が、表から急ぎ足で帰って来ると、ガラっと、台所の戸を開けて中に入りました。
「和尚さま。珍しい物を、見て参りました」
「ふむ、そりゃ、何じゃな?」
太作は、ニヤッと、笑って、
「横町の魚屋に、和尚さまの大好きな、蛸がございました」
蛸と聞いて、座っておった和尚さんが、飛び上がりました。
慌てて口に、人差し指を当てて、
「しっ」
太作を叱りつけてから、小さな声で、
「お前も、もう一寸、ここを」
と、言うて、頭を指差し、
「ここを、使え。ここを」
「はい」
「あれはな、蛸と言うてはならん、手が八本あるから、八つ手、と、言うのじゃ。誰もおらなんだから、良かった物の。して、その八つ手が、どうした」
「はい、その蛸、いや、その八つ手でございますが、えらう大きなやつで」
「ふむ、大きかったか。それは、近頃耳よりな話。して、そいつの頭は、どれほど」
「はて、どれほど大きゅうござりましょうか。えーと」
太作は、しきりに、あちらこちら見まわしておったが、
「おお、そうそう、ちょうど、和尚さまの、その頭程でございました」
きいておしょうさんは、つばを、ごくんとのみこんだ。
それから、頭をツルリと撫でると、
「ほほう。この頭程あったか。なるほど、大きいわい。して、その八つ手は、古いか、新しいか」
「はい、新しゅうございます」
「よし、刺身に出来るな。して、色艶は、どうじゃ」
「ちょうど、和尚さまの、そのお顔の様に、赤うございました」
和尚さんは、声を低めて、
「なるほど、なるほど。そいつは旨そうじゃ」
頷くと、
「では、人に知れんように、買うて来てくれ」
二人は、顔を見合わせて、ニヤッと笑いました。
ちょうど、その時、ガラッと、台所の戸が開いて、
「和尚さま」
「和尚さま、お出でで」
と、壇家の者が二、三人やって来ました。
ハッと思った寺男は、急いで、側にあった風呂敷を拡げると、和尚さんの頭に、すっぽり被せて、
「八つ手は、留守じゃ。八つ手は、留守じゃ」
おしまい
ハイッ、お次ぎがヨロシイようで------。
明日7月19日の予告
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